会社員を普通にしているとあまり気づかなかったのですが、投資や副業を始めたりして色々税制を調べ始めると、沸々と湧き上がる不満。
一般的なサラリーマンって税制面でなんて恵まれていないんだ!
勿論、年金の会社負担や福利厚生費等で自営業者よりも有利な点はありますが、こと税金に限っては報われないのが会社員の寂しい所です。特に基本的には源泉徴収による”強制納税”なので、経費などによる節税余地が限定的な点。
以下のようにサラリーマンの給与所得にもいわゆるみなし経費的な給与所得控除はありますが、給与の金額の一意に定まってしまいます。つまり、誰でも一緒ということですね。
下記の表から計算される給与所得控除額が税額を計算する際に控除されます。例えば、年収800万円なら
800万円 × 10% +120万円 = 200万円
この200万円分がみなし経費のようなものになります。
■平成28年の給与所得控除
給与等の収入額 | 給与所得控除 |
180万円以下 | 収入金額 × 40%(60万円未満の場合は、65万円) |
180万円 ~ 360万円以下 | 収入金額 × 30% + 18万円 |
360万円 ~ 660万円以下 | 収入金額 × 20% + 54万円 |
660万円 ~ 1,000万円以下 | 収入金額 × 10% + 120万円 |
1,000万円 ~ 1,200万円以下 | 収入金額 × 5% + 170万円 |
1,200万円超 | 230万円(上限) |
■平成29年以降の給与所得控除
給与等の収入額 | 給与所得控除 |
180万円以下 | 収入金額 × 40%(60万円未満の場合は、65万円) |
180万円 ~ 360万円以下 | 収入金額 × 30% + 18万円 |
360万円 ~ 660万円以下 | 収入金額 × 20% + 54万円 |
660万円 ~ 1,000万円以下 | 収入金額 × 10% + 120万円 |
1,000万円超 | 220万円(上限) |
但し、こうしたルールがあっても会社員にもいくつか節税手段は勿論あり、会社員でも経費を別途申請できる手段として、例えば、特定支出控除があります。
上記のようにみなし経費的な控除金額が一意に決まる会社員でも、特定支出控除の枠組みで経費を申請することができると言われています。ただ、その実際は殆ど使えない制度です。
Contents
税制は知らない方が馬鹿を見るが・・・
サラリーマンを”まじめに”やっていると、確定申告などもする必要がありませんし、あまり意識が副業や節税等に向きません。しかし、世の中の賢ーい人たちは、税制上の枠組みを上手く使用して賢く貯め込んでいます。
私は常々思うのですが、教育制度においてもっとこういった税制、公的福祉制度、お金の使い方や稼ぎ方等、もう少し「生き方」に焦点を当てた教育を施して欲しいです。
大人になると当たり前のように税金が取られますが、各種税制や控除の仕組みを知らないと、「知らない方が馬鹿を見る」状態ですからね。
知らない方が悪いという意見もありますが、国税庁のレポートでは確定申告をしている人は、就業者のおよそ3割と報告されています。残りの約6割くらいの会社員は年末調整で済ませており、こういった税を軽減したりする仕組みに触れる機会も自ずと少ないわけです。
そのため、知らぬ間に余計な税金を払っていることも・・・。
誰にでも平等に当たり前のように賦課されるものなんですから、自分で勉強して当たり前だ!ではなく、当たり前のように賦課されるものだから、当たり前のように教育する機会を増やして欲しいですねー全く。
特定支出控除に限っては知らなくても正直問題ない
但し、この特定支出控除に限っては、正直知っていてもあまり意味のないものでしょう。
特定支出控除とは、会社員の仕事に関わる出費のうち特定の出費については、給与所得額から経費として差し引ける仕組みです。但し、これには金額と差し引ける条件がそれぞれあり、以下の通りです。
対象となる支出
- 通勤に必要となる支出(通勤費)
- 業務上に転勤に伴う支出(転居費)
- 職務に必要な技術などを得ることを目的とした研修のための費用(研修費)
- 職務に必要な知識などを得ることを目的とした資格取得のための費用(資格取得費)
- 単身赴任先から自宅に戻るための費用(帰宅旅費)
- その他職務に必要な図書、衣服、交際費※65万円まで
項目だけ見てみると、「おっ結構使える項目多いじゃん!節税に使えそうだ。」なんて思うかもしれませんが、その認識は大間違い。適用基準である金額要件と給与支払い者の承認が利用の妨げとなっています。
特定支出控除の適用基準
- 上記項目に該当する支出のうち、給与所得控除の2分の1以上の部分
- 上記の支出が給与の支払者から関連出費であると承認を得ていること
もうこの条件ね、使わせる気がないだろ、と。
この特定支出控除が使えない理由は上記の2点のせいと言っても過言ではないです。
非常に使い勝手の悪い適用条件
給与所得控除の2分の1以上でも超過する人はほとんどいない
まず、金額要件の給与所得控除の2分の1以上の部分。これは先ほどの年収800万円の方の例に適用する場合、給与所得控除は200万円なので、半分の100万円以上の部分にしか適用されません。
ちなみに、以前は全額を超過した部分(年収800万円なら200万以上の部分)でしたらまだ改善した方。
ただ、考えてみれば分かるかと思いますが、特定支出に該当する100万円以上の支出ってそうそうあるものでしょうか?
いくら年収800万円あろうとも、業務関連の支出で年間100万円以上って仮にスーツやPC、関連図書、交際費等を含めても中々達しない額。逆に年収の12、3%も業務で自腹出費が必要になるって一部士業の資格取得費用等を除き、どんなブラック企業ですか、という話です。
これだけ使っても税額控除ではなく、所得控除。当たり前ですが
所得税の計算の仕組みは、様々な控除はありますが諸々無視して極めて簡単にすると以下の通りです。
- (給与金額 - 給与所得控除) × 所得税率 = 税金額
所得控除と税額控除の違いは、上記の式の部分で各々以下の部分に位置します。
- (給与金額 – 給与所得控除 – 所得控除) × 所得税率 = 税金額 – 税額控除
所得控除は所得税を計算する前の所得部分から差し引き、税額控除は算出された税金の部分から直接差し引きます。特定支出控除は、所得控除なので所得の調整にしかなりません。
例えば、年収800万円の人が給与所得控除を差し引き、仮に所得が600万となった場合、所得税率は20%。そのため、極めてざっくりの計算ですが、年収800万円くらいの人は年間110万円業務関連で使うと、超過分10万円×20% = 2万円くらい税額が低くなる計算。
これが税額控除なら税金が直接10万円低くなる。所得控除と税額控除の違いはここです。
まぁ、何が言いたいのかというと、使う金額の割に税額が大して軽減されないのです。
給与支払者の承認が必要・・・ただひたすら面倒。
そしてもう一つ面倒なのが、こういう業務関連支出は全て会社の承認を得ねばならないこと。
確かに業務関連支出として証明を受ける合理性は理解できなくはないですが、仮に業務に使うスーツや、図書等を購入してそれをわざわざ都度会社に承認を貰うのは非常に手間です。
国税庁のホームページでは、以下のような証明フォームのサンプルを提供していますが、
まぁ面倒ですね。自営業者は自己申告である一方、会社員はこれをスーツ等購入する度に証明として総務等に申請する必要があります。普通の会社員なら非常に難度が高いと言えるでしょう。説明などの時間ももったいないです・・・。
殆どの人が利用できていない形骸化した制度
この特定支出控除、先日の日経の記事ではこのように報道されていました。
会社員・公務員向け経費節税、利用者減る 制度拡充後で初
(冒頭省略)
特定控除は研修費や交通費などの経費を収入から差し引くことで税負担を軽くできる仕組みだ。会社員には年収に応じて65万~230万円を所得から差し引き税金を軽くできる「給与所得控除」がある。対象経費の合計が自身の給与所得控除額の2分の1を超えると特定控除が利用できる。
13年度から新たに図書費や衣服費、交際費にも対象を拡大。12年度の利用者は6人だったが13年度に1430人に増えた。さらに利用者が増えるとの見方があったが、「会社からの証明書をもらうなど手間が多い」(都内の税理士)ことなどから利用を断念する人が多いという。
1800人でも約4000万人いる源泉徴収の給与所得者の0.004%程度しか使っていない。「自営業者は自動車やパソコンなどを仕事に少しでも使っていれば経費として認められるのにおかしい」といった会社員の不満は解消されなさそうだ。
(出所) 2016/7/11 日本経済新聞 http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS08H6E_R10C16A7PP8000/
もうね、使用率0.004%とか制度として機能していませんよね。この国の税制の仕組みがサラリーマンに厳しいのは重々承知はしていますが、それに関係なくこの制度はその在り方に明らかに問題がありそうです。
会社員の給与が上がらないのに、消費税で物の値段は上がり実質的な所得は徐々に減少しているなか、各々の工夫次第で所得税を軽減できる余地を広げるべきですね。
勿論、正当な経費に基づくものですよ。