不動産投資と株式投資の比較は、「インカム収益」と「レバレッジ」を含めないとフェアじゃない

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私の手元に大口の資金があったとして、不動産と米国株式どちらに投資すべきでしょうか。

Business Insiderで米国の住宅市場と株式市場の比較記事があり、どちらも関心がある私には大変興味深い内容でした。記事冒頭のまとめを簡単に抜き出すと、結果は以下の通り。

不動産の購入は、多くの人にとって人生最大の金銭的な決断。一方、株式投資は一般的に、資産を築くために重要なこととされている。我々は、米連邦住宅金融局(FHFA)とヤフー・ファイナンスのデータを使って、過去数十年間の住宅価格と株価を比較した。ほとんどの期間において、株の方が高いリターンを生んだことは明らかだった。だが、注意点もある。このデータは単純に過去の結果を比較しただけ。投資における最適な判断は、人それぞれの状況やニーズによって異なる。

結論としては、株式の価格が殆どの期間において不動産価格の上昇を上回るという結果です。

確かに、米国のように中古住宅市場の規模が大きく、不動産価格の上昇も著しい国ではキャピタルリターンの比較として、試算の意味は少しはあるかもしれません。

ただ、単純に過去のデータを比較しただけと断りはありますが、株式投資と不動産投資の比較をするなら、もう少し考慮すべき点があります。

キャピタルリターンなら、株式がほぼ上回るのは当たり前

こうした試算の前提には、株式投資によるリターンの源泉と不動産投資によるリターンの源泉が考慮されていません。

中長期的にみて株価の上昇が不動産価格の上昇を上回るのは、試算をしなくても当たり前だからです。

比較に織り込む要素が不十分

株式の中長期的なキャピタルリターンは、ROE×(1- 配当性向)で算出される内部成長率とインフレ率に影響されます。

  • 株価 = 内部成長率(ROE × (1 – 配当性向)+インフレ率

内部成長率とは、外に払い出したお金(=配当)とは別に、企業の内部でためたお金の増加率であり、株価は企業が中で貯めたお金に比例して押し上げられるということです。

一方で、不動産価格は、内部留保増加の概念はなく、利益は家賃収入としてオーナーに払いだされます。

理論的には減価償却により建物の価値が減価するはずですが、土地と不動産に対するインフレ効果が相殺し、不動産価格を押し上げます。

  • 不動産価格 = ▲経年劣化(減価償却) + インフレ率

インフレ率や金利の変動が株や不動産のバリュエーションに等しく影響するとした場合、冒頭の記事の比較なら、不動産はインフレ効果による押し上げしか期待できません。

株式投資は、内部成長率の分だけ上昇するのは当たり前なのです。

そのため、よほど不動産が有利な局面でない限り、キャピタルリターンの比較では、株式投資をした方が有利という結論になります。

これは、極端な例を出すと、株式投資と債券投資の比較を価格変化のみで比べて、債券のクーポン収入を加味しないようなものです。

当たり前ですが、複数の投資資産のリターンの大小を比較するには、「期待リターン」ベースで比較する必要があります。

比較に織り込むべき視点① インカム収入

株式投資と不動産投資はリターンが得られる源泉が大きく異なります。

株式投資の期待リターンは、株価の値上がりによるキャピタルリターンと、配当収入よるインカム収益があります。

同様に不動産投資においても、不動産価格の値上がりによるキャピタルリターンと、定期的な賃料によるインカム収益があります。

あり得ないことですが、これら二つの期待リターンにおけるインカム収入の比率や収益率が全く同じ場合、冒頭の比較は多少の意味を持ちます。

しかし、当たり前ですが不動産投資の収益の比重は、インカム収益の寄与が株式と全く違います。

(出所)AM One

感覚としては、毎月分配型投信とS&Pのインデックス投信を再投資せずに基準価格を比較していることに近いです。

実際のAM OneのメジャーREIT投信(ゼウス)の基準価格を見れば、イメージが掴みやすいかもしれません。

REIT投信の基準価格の推移は再投資込みでやっと見られるチャート(青線)ですが、分配金の再投資をしなければ、利益をただ垂れ流すだけなため、上記のオレンジ色の線のように糞みたいな価格推移になります

このように株式投資と不動産投資では、インカム収益の加味は必要不可欠です。

比較に織り込むべき視点② レバレッジと税効果

不動産投資は、あらゆる投資の中でも、唯一借入による他人資本で収益を得ることができる投資です。

勿論株式投資でも、信用買いやCDS等で実質的な借入によって投資することは可能ですが、投資効率は圧倒的に不動産投資に軍配があがります。

先の比較の場合、あくまでも自己資金のみで投資を行う場合を想定していますが、不動産投資では、お金を持っている人でも借入によるレバレッジを効かせて投資を行うことが一般的です。

こうした投資手法の差によって、例え価格変化のみの収益率が株式投資を下回っていたとしても、投下した自己資金に対する利回りは、圧倒的に不動産投資の方が高くなります。

更に不動産投資の賃料収入は、法人を咬ませると不動産経営に関する経費として税前ベースで様々な用途に使用できる利点がある等、様々な税的メリットがあります。

しかし、株式投資はこうした節税策の自由度は僅少です。

株式投資と不動産への投資効率を比較するなら、再投資込みのREIT投資の比較がまだフェア

純粋に株式投資と比較するなら、配当込みベースのREIT投資の方がまだ土台が近く比較としてはフェアです。ただ、株式投資が上回るでしょう。

借入等行わない条件なら、中長期のリターンの高さで米国株式に勝る投資手段は、かなり少ないと考えます。

株式投資と不動産投資は、冒頭での言及の通り、投資を行う人の価値感やニーズ、資産背景、判断基準等によってその重要度や、投資としての優劣は違います。

しかし、比較を行う場合はある程度同じ土俵に乗せて検証しなければ、誤解を招く可能性があることには注意が必要と思います。

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