米国株式のインデックス投資には様々な手法があり、主たる手段はETFと投資信託になりますが、ETF・投信にも一長一短があります。
ETFの投資を考える場合、選択肢は更に国内上場と米国上場の2択になりますが、果たしてどちらを選択する方が合理的なのでしょうか?
ETFと投信の比較はよく見ますが、国内上場と海外上場のETFの違いがまとまっている記事あまり見当たらないので、各々のメリット・デメリットと特に面倒な課税関係について掘り下げてみます。
Contents
国内・米国上場のETFの特長
日本にも米国にも上場しているメジャーなETFとして、例えばSPY US(1557 JP)があります。さて、仮にこのETFに投資する時には、日本と米国どちらに投資すべでしょうか。
国内上場ETFのメリット
- 【メリット①】銘柄の情報が日本語で取得しやすい
- 【メリット②】取引時に為替のことを考える必要がない
- 【メリット③】日本時間にリアルタイムで売買できる
- 【メリット④】売買コストが低い(無料)
国内上場のETFは大抵銘柄の概要書が日本語で入手できるため、英語が苦手な方でも簡単に読むことができます。
また、米国上場のETFとは異なり、円建で取引されていることから為替の影響は証券の価格に織り込まれており、売買時に為替取引を行う必要はありません。
更に最も大きなメリットとして、国内上場の場合売買手数料が安価であることが挙げられます。
ご存知のように国内大手のネット証券では、小口の国内株式の売買は、手数料が無料となっています。米国上場のETFを購入しようとすると1取引最低5ドル前後は必要ですが、国内上場であれば手数料が無料のため、積立投資も行いやすいです。
加えて、例えばカブドットコム証券のようなフリーETF制度を利用することで、銘柄は限定されますが更に効率的に積立を行うことができます。
米国上場ETFのメリット
- 【メリット①】投資できる銘柄数が豊富
- 【メリット②】経費率が低いものが多い
- 【メリット③】リターンについて、株式と為替の要因分解がしやすい
次に米国上場ETFについて確認してみましょう。基本的にビギナー投資家や、S&P500のようなシンプルなインデックスに投資する場合は、国内上場の外国ETFでも十分です。
しかし、高配当株式やテックセクター等、銘柄やスタイルの選択肢は多い方が良いという人なら、米国上場のETFに投資する必要があります。
1557 JPはSPY USと同じ経費率なため、この銘柄であれば敢えてSPY USを買う必要性は少ないかもしれません。
しかし、米国では競争が激しいため、それ以外のETFを見ると経費率は米国上場の方が押し並べて低い水準にあります。
また、ドル建の投資になるため売買時には為替取引が必要ですが、その分投資収益において有価証券の収益と為替効果による収益に容易に要因分解できるため、玄人の方はドル建を好む人もいます。
国内・米国上場のETFの課税関係
次に分かりづらい課税関係について確認します。
売却益
国内の投資家が米国上場のETFを売却しても、米国内の課税は発生しません。一方で、国内では譲渡益に対して20.315%(所得税15.315%、住民税5%)の申告分離課税が適用されます。
キャピタルリターンに関しては、国内上場だろうが、米国上場だろうが変わりません。NISA口座で購入した場合は、勿論売却益は非課税となります。
分配金
ややこしいのがこれ。配当金に関する課税の取り扱いです。
米国株ETFの分配金の課税関係については、米国での源泉徴収税率10%・国内源泉徴収税率20.315%(所得税15.315%、住民税5%)が基本的には適用されます。
ただし、そのETFについて、その種類や投資方法によって外国税額控除の適用可否等が異なります。関係性を表で整理してみます。
国内上場のETFを保有した場合
種類 | 国内籍ETF | 外国籍ETF | ||
銘柄の例 | 1547 JP(上場インデックスファンド米国株式) | 1557 JP(SPDR S&P500) | ||
投資口座 | 特定・一般口座 | NISA口座 | 特定・一般口座 | NISA口座 |
分配金 米国源泉税10% |
課税 | 課税 | 課税 | 課税 |
分配金 国内源泉税20.315% |
課税 | 非課税 | 課税 | 課税 |
外国税額控除 | 不可 | 不可 | 可能 ※「登録配当金受領口座方式」か「配当金領収書受領方式」の場合 |
可能 ※「登録配当金受領口座方式」か「配当金領収書受領方式」の場合 |
分配金課税のタイミングが違う
国内上場のETFでメジャーな1547と1557を例に挙げると、いずれも米国での現地課税が行われています。
ただし、1547はETFの内枠で課税される一方、1557はETFの外枠で課税されます。
- 1547:運用する米国株式の配当 ⇒ 【課税】 ⇒ ETFが配当受取 ⇒ 分配金
- 1557:運用する米国株式の配当 ⇒ ETFが配当受取 ⇒【課税】 ⇒ 分配金
そのため、1557は外国所得の特定ができるため、外国税額控除が適用が可能ですが、1547では外国税額控除が適用できません。
NISA口座の扱いが異なる
次に国内での分配金の課税ですが、1547はNISA口座で保有すれば、非課税とすることが可能です。
なお、1557は「国内上場外国株式」というカテゴリーになり、NISA口座でもこれらの銘柄は多くの証券会社では分配金の受け取り方法に「株式数比例配分方式」を適用できないため、課税されます。
※NISA口座で分配金を非課税で受け取るには、証券口座で受け取る株式数比例配分方式を選ぶ必要があります。
※外国株式扱いの国内上場銘柄は、証券保管振替機構のサイトで公開されています。
米国上場のETFを保有した場合
種類 | 米国上場ETF | |
銘柄の例 | SPY US | |
投資口座 | 特定・一般口座 | NISA口座 |
分配金 米国源泉税10% |
課税 | 課税 |
分配金 国内源泉税20.315% |
課税 | 非課税 |
外国税額控除 | 可能 | 不可 |
NISA口座かどうかで外国税額控除も変わる
米国上場のETFは上記よりもシンプルです。分配金に対する現地課税は、口座種別に関わらず行われます。
NISA制度は海外ETFの売買でも対象となるため、分配金に対する国内の課税を回避することができます。
ただし、NISAで分配金に対する国内の課税を回避した場合は二重課税となっていないため、外国税額控除の適用はできません。一方、特定口座であれば外国税額控除の適用が可能です。
「二国間における類似の課税により二重に課税されてしまうことを避けること」が外国税額控除の趣旨である点を踏まえると、当然と言えば当然ですね。
制度の特性を判断基準にした最適な手段とは
これらの特徴を踏まえると、内外ETFの二択から有用なインデックス投資(ex.S&P500)を選ぶなら、以下の手段が最適と判断されます。
- 通常のNISAで投資できる:NISA口座で海外ETFに投資
- つみたてNISA等で通常のNISAが使えない:特定口座で1557 JPか海外ETFに投資
通常のNISA口座で海外ETFを購入すると、海外ETFの経費率の低さに加え、手数料無料の証券会社では売買コストもかからず、分配金に対する課税も抑制できます。
一方、NISAの選択肢がない場合は、1557 JPか海外ETF(SPY US等)のうち、冒頭の特徴を踏まえて好みの方法を取ることがベストでしょう。
なお、私は深く考慮していませんでしたが、つみたてNISAで米国株投信+特定口座で海外ETFの組み合わせで投資をしており、少なくとも制度の利点をうまく利用した投資にはなっているようです。