米国には、沢山の個別銘柄と同様に大量のETFが存在します。
しかし、日本の投資家が売買するのは、一部の主要な銘柄ばかりフォーカスされており、日本の証券会社で購入できるにも関わらず、日の目を見ないETFも多いです。
私のようなS&P500には投資しないけど、それ以外のETFを買ってしまうインデックス投資家は、個別銘柄の売買を行わない分、どのETFが良いか見極める必要があります。
主要なETFは他の著名ブロガー様が取り上げており情報が潤沢ですが、マイナーETFは中々情報が出てきません。
そこで、日本の証券会社から購入できるけど、全然目立たないETFをひっそり研究していきます。
今回は、米国に上場するGAL:SPDR SSGA グローバルアロケーションETFについて取り上げます。
Contents
ETFの概要
項目 | 概要 |
ティッカー | GAL |
名称 | SPDR SSgA グローバルアロケーションETF |
投資対象資産 | 株式・国債・社債・REIT |
経費率 | 0.35% |
私的には、初っ端から色物ETFを取り上げてしまったと思っていますが、個人的に気になっていたので、これを機に深堀したいと思います。
このETFは、個人的には中々の曲者と見ており、調べるだけでわくわくします。
複数資産のバランス型アクティブ
投資信託と異なり、ETFはインデックス運用かつ単一資産に投資する銘柄が圧倒的に多いですが、このGALは複数資産かつ、アクティブ運用の珍しいETFです。
投資対象資産は主に先進国の株式・債券・REITのETF及び新興国の株式・債券のETFを用いて運用し、適宜ETFの配分比率を変えることでリターンの底上げを図ります。
記事執筆時点(2018年11月)の上位構成銘柄(キャッシュやMMFは除く)は以下の通り。
- SPDR S&P500 ETF:25.7%
- SPDR Portfolio Developed World ex-US ETF:14.0%
- SPDR Bloomberg Barclays High Yield Bond ETF:6.0%
- SPDR Bloomberg Barclays TIPS ETF:5.1%
- SPDR Portfolio Small Cap ETF:4.9%
- SPDR Portfolio Long Term Treasury ETF:4.1%
- SPDR Portfolio Emerging Markets ETF:4.0%
- SPDR S&P International Small Cap ETF:3.0%
- SPDR Bloomberg Barclays Intermediate Term Treasury ETF:2.1%
- SPDR Dow Jones REIT ETF:2.1%
こうした主要な資産のETFを20銘柄前後組入れます。資産単位では、概ね株式60-70%、債券20-30%、現金10%、REIT5%が構成割合です。
ベンチマークが意味をなさないアクティブ運用
アクティブ運用の場合、絶対収益型を除き必ずなんらかのベンチマークを上回るパフォーマンスを実現することを目的とすることが多いですが、このファンドでは一応2つのベンチマークが設定されています。
- プライマリーベンチマーク:MSCI ACWI
- セカンダリーベンチマーク:ブルームバーグバークレイズUSアグリゲート指数
1つ目のベンチマークは、MSCIの世界の株式を対象とした指数で、先進国株式と新興国株式を対象とした指数です。もう一つの指数は、米ドル建の債券を対象とした総合指数で、国債や政府機関債、社債、MBS等に投資します。
ただし、当然ですが中長期的なリターンの高さは、取るリスクに比例します。
独自指標に基づくタクティカルアセットアロケーションが運用スタイルであり、基準ウェイトから0-20%の範囲内でウェイトを機動的に変化させますが、GALは概ね株式7割・債券2-3割という資産構成上、中長期のリターンは必ず下記の関係になります。
株式指数 > GAL > 債券指数
このETFの重要なポイントはココです。例えば、ベンチマークとして、株式指数:60%+債券指数40%という仮想ベンチを上回るという仕様ならまだ分かります。
しかし、このファンドでは、いずれのベンチマークに対しても、特段上回る・下回るという言及をしている訳ではなく、運用目的は「キャピタルリターンの実現」というあやふやな目標としています。
そんなもの中長期的で見れば、全く適当に資産配分しても実現することができます。
また、リスク水準が異なる指標を比べる場合は、例えばせめてリターン/リスクの運用効率で比べるなら理解できますが、それも公開されていません。
たぶんベンチマークのETFを一定割合で持てば十分
ベンチマークは形だけで、それを上回りも下回りもしない単なるバランス運用。タクティカルアセットアロケーションといえば聞こえは良いが、その運用の巧拙は誰にも分らない
というのがこのETFの正体です。
GALは、ETFの経費率として年率0.35%かかります。プロバイダーいわくこれには投資している個別のETFの経費率も計上されており、これ以上の経費はかかりません。
ただし、資産配分効果がよく分からないものに経費率を払うくらいなら、私はベンチマークであるMSCI ACWIにトラックするACWI(iShares MSCI ACWI ETF 経費率:0.31%)とAGG(iSharesコア米国総合債券市場ETF 経費率:0.04%)を6対4、7対3で持てばほぼ同じようなことができ、コスパも良いと思います。
ETFのパフォーマンス
実際の気になるパフォーマンスを比べて見ましょう。直近5年では以下の通り。
期間 | GAL | ACWI | AGG | ACWI70%AGG30% |
1年リターン | -0.81% | -0.95% | -2.05% | -1.13% |
3年リターン、年率 | 4.40% | 7.78% | 1.04% | 6.07% |
5年リターン、年率 | 3.75% | 6.12% | 1.83% | 5.18% |
5年リターン/リスク | 0.44 | 0.50 | 0.56 | 0.59 |
※分配金等を考慮したYahoo Financeの調整価格を使用
ETFの設定が2012年なので、まだ実力を見極めるには早いかもしれませんが、少なくともリスク水準の異なる株式と債券の指数とリターンを比べても何の意味もないです。
参考にACWIとAGG、7対3で保有した場合で各々シミュレーションし、運用効率(リターン/リスク)で比較してみましたが、最もGALがぱっとしないことがよくわかります。
リターン/リスクの比率が最も悪いということは、リスクを取っているにも関わらず、相対的に応分のリターンが確保できていないことを表します。
端的に言うと、運用が下手ということですね。
もしかしたら、配分比率の問題もあるかもしれません。そこで、ACWIとAGGへの配分を変化させたいくつかのパターンで試算してみたところ以下の結果となりました。
パターン | 5年リターン/リスク |
GAL100% | 0.44 |
ACWI90%・AGG10% | 0.53 |
ACWI80%・AGG20% | 0.56 |
ACWI70%・AGG30% | 0.59 |
ACWI60%・AGG40% | 0.63 |
ACWI50%・AGG50% | 0.68 |
ACWI40%・AGG60% | 0.74 |
概ね想定された結果ですが、GALの運用効率はインデックスETFの単純分散投資に大きく劣後しています。
前述の通り、運用効率とはリスクあたりのリターン獲得効率を指しますが、GALは単純なACWI・AGGの組わせと比べて最も効率が悪いという結果でした。
結論:GALへの投資は止めなさい
分散投資によるリスク分散で安定的に資産を増やすとは聞こえが良いです。
しかし、GALの運用の場合、不必要に投資効率が悪い資産にも投資を行っていることにより、リターンの獲得効率を落としてしまっているのが実態でした。
結論としては、GALへの投資は現時点では止めておくのが無難です。同じリスク水準でより高い運用効率を目指すなら、過去5年の実績から算出すると、ACWIを67%、AGGを33%ずつ保有すれば良いです。
これで同じリスクにも関わらず、年率1.3%程度リターンが上昇します。
また、ACWIやAGGは既に十分に分散されているETFであり、個別銘柄の倒産やデフォルトの影響を受けにくいです。
いずれもウェイトのみでみれば米国が中心のETFですが、運用の世界で米国市場が大きく崩れるような状況では、他の資産も高い確率で崩れています。
不必要に投資資産を増やしても、分散しているように見えて大して意味はなく、運用効率をただ落としている場合もあります。
アクティブ運用には夢がありますが、冷静に数字を見ると全く手数料に結果が見合っていないことも多いです。投資前にはしっかりと分析をしたいですね。