米国株式は他の国の株式と比べて割高な株価となっていると言われることが多い。そうした指摘の背景には、株価収益率(以下PER)の水準が他国と比べて高いからだ。
確かに、日本やドイツ株は最近13倍~15倍程度で推移していたが、米国株式は近年は15倍~20倍のレンジを右肩上がりに上昇していた。足元はやや調整したとはいえ、米国株式の高PERは健在だ。
PERは株価の割安・割高度合を測る指標として、通例PERが低い株ほど投資妙味があるとして取り上げられるが、逆に米国株式の中でPERが最も割高な株は何だろうか。
■調査の前提
- 米国の大型株以上(647銘柄)
- Yahoo FinaceのStock Screenerを使用
- PERは直近12ヵ月の利益ベース
- 基準日は4月上旬時点
上場して間もない中小型の企業は、将来の成長性の高さを織り込んで株価が猛烈に割高になる傾向があるため、ここでは米国の取引所に上場している大型以上の647銘柄を調査対象にした。
PERには大別して将来の予想利益に対するもの(予想PER)と過去の実際の利益に対するもの(実績PER)の2種類がある。
投資では将来の利益に対して株価の妥当性が測るのが一般的だが、WEBでは将来ベースのPERが中々手に入らないため、実績PERベースで確認する。
利益の変動が激しい企業では予想ベースの利益を基にしたPERと乖離するが、ある程度は両方の水準は整合していると思う。
Contents
1位:Gartner(ガートナー)
PER | 3209.73倍 |
事業内容 | IT分野の調査・助言 |
1位はしばしば株価の割高感が報道されるAmazonではなく、IT分野のリサーチやコンサルティングを主事業とするガートナーがトップで、PERは3,000倍以上。グローバルに事業を展開しているが、ビジネスモデルが独特でブランド力は相当強い。
益利回りでは当然ながら0.03%と非常に低い数字となっている。株価の動きを見てみると、確かに近年のテックがけん引する相場展開を体現するかのような上がり方だ。
(青)Gatner (赤)SP500
リサーチ・コンサルティング、イベントの運営等、セグメント別の収益はいずれも堅調に伸びているが、期待先行が過ぎるのだろうか?非常に割高な状況が続いている。いずれにせよ、案の定IT関連企業が割高銘柄のトップとなった。
2位:Kinder Morgan(キンダーモルガン)
PER | 1,550倍 |
事業内容 | 天然ガスの輸送、パイプラインの運営 |
2位は天然ガスやパイプライン事業を運営するキンダーモルガン。同社の場合は、どちらかというと、利益成長で割高になっているというよりも、利益配当で株価が維持されている側面が強い。
チャートを見ても株価は低空飛行を続けており、キャピタルリターンを含めると現状では普通にSP500インデックスファンドを買っていた方がよい。
(青)Kinder Morgan (赤)S&P500
足元のオイル価格は回復傾向にあるが、同社の今後のEPS(1株当たり利益)の予想は現行水準を維持する程度。個人投資家の中には、将来の増配を見越して買い増ししている人も非常に多い。
しかし、利益成長が伴わない中での増配は継続性にやや疑問。結果的に増配やるやる詐欺となった時の反動は怖い。
3位:Mercado Libre(メルカド・リブレ)
PER | 1,135倍 |
事業内容 | ECサイト運営 |
3位のメルカド・リブレは南米を中心にECサイトを運営するアルゼンチンの会社。米国は様々な国籍の会社が上場しており、早速上位に米国以外の会社が入った。
ECビジネスの伸びは著しく、アマゾンが猛烈に事業地域を広げている。インドでは同業のフリップカートの買収を模索する等、その勢いは凄まじい。
こうしたAmazonの買収や事業拡大のニュースでこの類の銘柄は下げる傾向があるが、利益成長は今のところ堅調だ。チャートも右肩上がりに上昇している。
(青)Mercado Libre (赤)S&P500
まだ時価総額はそこまで大きくないため、個人投資家の中には第2のアマゾン株として仕込む人が多いようだ。このチャートを見ていると、確かにそんな気がしないでもない。
4位:Waters Corporation(ウォーターズ・コーポレーション)
PER | 807倍 |
事業内容 | 分析用機器の製造販売 |
ウォーターズ・コーポレーションは、ウォーターサーバーの販売会社なんてものではなく、分析用機器の製造・販売を行う会社。主な製品として、超高速高分離液体クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、質量分析システム、熱分析システム等がある。
まぁ正直、こういった分野に精通していない人からすると、なんだそれ?だろうが、世界的に当該分野において一定のシェアを持ち、業績の伸びも堅調。事業は31の国で行われているが、製品自体は100以上の国で使用されている。
(青)Waters Corporation (赤)S&P500
元々S&P500を構成する同業のPERは100倍前後とS&P500構成企業の平均PERと比べても高いが、ウォーターズは800倍前後と飛びぬけている。今購入しても相応のリターンは期待できそうだが、株価には増益がかなり織り込まれてしまっている感じは否めない。
5位:Salesforce.com(セールスフォース・ドットコム)
PER | 700倍 |
事業内容 | CRMソフトウェアの提供・販売 |
ここにきてやっと普通の人にも認知度の高い企業が登場。セールスフォース・ドットコムはクラウドベースの顧客管理ソフトウェアを提供する会社。国内企業でも同社のCRM(Customer Relationship Management、顧客関係管理)ソフトウェアを導入している企業は多い。
CRMソフトウェア業界は競争が激しく、シェアを争うプレイヤーの数も多い。しかし、冒頭に挙げたガートナーの調査によると、セールスフォース・ドットコムは2016年時点で18%の市場シェアを持っており、2位のSAPの倍となっている。
セールスフォースドットコムは売上高105億ドル規模の企業だが、依然として2桁%の成長率を維持。そうした成長力の高さが株価にも表れており、PERが跳ねているのだろう。
上位企業はやはりIT関連が強い
ある程度予想された結果だが、上位にはウェブ、ソフトウェア等のIT関連企業が並んだ。やはりこれらの企業の成長力は高く、将来の成長性を見込んだ株価がPERを猛烈に押し上げている。
ちなみに、6位から10位を見てみると、ボストン・サイエンティフィック、ジョンソン&ジョンソン、シノプシス、アマゾンドットコム、ネットフリックス等、医療関係やハイテク株が並ぶ。
PERが高過ぎる企業は既に株価が吊り上がっており、投資しても相応のリターンが臨めるか見極めが難しい。特にバリュー投資を行っている人は見向きもしないだろう。
ただ、そうした投資の観点とは別に、PERの高さとは、すなわち今投資家が持っている関心・興味の度合を表しているようなものだ。
高PERの企業は投資としては買えなくても、PERの高い企業によって市場のトレンドが分かり、純粋にウォッチするだけでも面白い。