近年の米国株式は、グローバルな株式の中でも配当を含むトータルリターンの水準は抜群に高く、先進国株の中でも上位に位置している。
基本的に右肩上がりであるため、長期の積立投資としては最適の投資先と言えるが、株式なので相応に金額は上下する。
ポートフォリオの安定性を高めるには、地域や資産をある程度分散させておくことは重要だ。理論的には、米国株式+いくつかの地域の株を保有しておいた方がリスク・リターンの効率は高くなるはずだ。
この記事では、本当にこうした仮説が事実なのか、各国のETF価格の推移を用いて検証した。加えて、株式において地域間の分散投資をする場合に資金を投じるべき国・投じてはいけない国を考えてみた。
ここでの検証では、ETFの価格変化のみで行っているが、実際の運用ではこれに分配金による複利効果も加わる点に留意したい。
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国別の累積リターンの比較
今回時価総額の比較的大きな先進国株式でETFで計算を行った。具体的な対象国とETFの名称は以下の通り。
- 米国:SPY (iShares S&P500 ETF)
- 日本:EWJ(iShares MSCI Japan ETF)
- ドイツ:EWG(iShares MSCI Germany ETF)
- 香港:EWH(iShares MSCI Hongkong ETF)
- フランス:EWQ(iShares MSCI France ETF)
- カナダ:EWC(iShares MSCI Cacada ETF)
- スイス:EWL(iShares MSCI Switzerland ETF)
- オーストラリア:EWA(iShares MSCI Australia ETF)
- イギリス:EWU(iShares MSCI United Kingdom ETF)
- オランダ:EWN(iShares MSCI Netherlands ETF)
- スウェーデン:EWD(iShares MSCI Sweden ETF)
- イタリア:EWI(iShares MSCI Italy ETF)
分散投資は大事だが、リスクを無視して単純にリターンを追求するなら、最もリターンの高い国の株式に重点的に投資すれば良い。
実際のETFの価格推移に基づく収益率は以下の通りだ。
■1996年4月 ~ 2018年6月までのリターンの比較
順位 | 国 | 累積リターン | 年率リターン |
1 | 米国 | 451% | 8.0% |
2 | オーストラリア | 426% | 7.8% |
3 | カナダ | 424% | 7.7% |
4 | フランス | 303% | 6.5% |
5 | スイス | 262% | 6.0% |
6 | スウェーデン | 246% | 5.7% |
7 | イギリス | 210% | 5.2% |
8 | イタリア | 192% | 4.9% |
9 | オランダ | 180% | 4.7% |
10 | ドイツ | 169% | 4.5% |
11 | 香港 | 148% | 4.2% |
12 | 日本 | 46% | 1.7% |
※1996/4/1 ~ 2018/6/30までのデータに基づく、キャピタルリターンのみ
単純なリターンの比較で見ると、過去22年では米国・オーストラリア・カナダ等の株式のリターンが高い。
勿論過去のリターンが将来のリターンの高さに直結する訳ではないが、今後も相応のリターンが期待できることは確かだろう。
一方、低リターンワースト3が日本・香港・ドイツ等の株式だ。特に日本やドイツの株式市場は時価総額が大きく、MSCI World等にも併せて1割近く組み入れられているが、結果的にこれらの株式は、ポートフォリオのリターンを低下させている。
MSCI JapanはTOPIX対比で見てもパフォーマンスが劣後している駄目な指数であるが、そうした点を考慮しても、日本株のリターンの劣後度合は悪い意味で目立つ。
国別シャープレシオの比較
いくらリターンが高くても、そのパフォーマンスを実現するまでのリスクが高過ぎる場合、あまり良い投資とは言えない。
そこで、各国ETFのシャープレシオ(リターン÷リスク)も計測し、最も投資効率の良い国はどこか確認した(ここでは簡易的に無リスク金利は0%とする)。
■1996年4月 ~ 2018年6月までのシャープレシオの比較
順位 | 国 | シャープレシオ |
1 | 米国 | 0.43 |
2 | カナダ | 0.35 |
3 | オーストラリア | 0.30 |
4 | スイス | 0.28 |
5 | フランス | 0.26 |
6 | イギリス | 0.23 |
7 | オランダ | 0.20 |
8 | スウェーデン | 0.19 |
9 | イタリア | 0.18 |
10 | ドイツ | 0.18 |
11 | 香港 | 0.15 |
12 | 日本 | 0.07 |
※1996/4/1 ~ 2018/6/30までのデータに基づく、無リスク金利は0%とする
概ね想定された結果だが、シャープレシオの観点でも上位は米国・カナダ・オーストラリアの組み合わせで、下位は日本・香港・ドイツだった。
結局日本株は、ETFで検証する限りにおいては、リターンが低い上に投資効率も悪く、全く良い所がない株式の代表格となっている。
米株投資家とって理想的なポートフォリオと駄目なポートフォリオとは?
これらの結果を踏まえ、主に米国株式を投資している投資家が分散投資として組み入れる国を特定したい。
各国のETFを任意の固定ウェイトで保有した場合について、以下の各々のケースを最適化で確認する。なお、これらの前提となる制約条件として、資金のうち50%以上は米国株式に投資する制約を設定している。
- 最も投資効率の良いポートフォリオ
- 最も投資効率の悪いポートフォリオ
1.最も投資効率の良いポートフォリオ
■配分比率
- 米国株式:57%
- カナダ株式:23%
- オーストラリア株式:11%
- スイス株式:8%
項目 | 価 |
累積リターン | 488% |
年率換算リターン | 8.3% |
リスク | 18.1% |
シャープレシオ | 0.46 |
※1996/4/1 ~ 2018/6/30までのデータに基づく、無リスク金利は0%とする
最もシャープレシオの高いポートフォリオとは、米国株式に投資しつつ、カナダ・オーストラリア・スイスの株式に一定割合投資する組み合わせだ。
カナダ・オーストラリア・スイス株式はリターンやシャープレシオともに上位に位置しているが、実は米国株式との相関係数も他の地域と比べ相対的に低く、分散効果が効いている。
あくまでも過去の実績だが、米国株式単独で投資するよりも累積リターン・シャープレシオが改善するため、実際のポートフォリオでもこの組み合わせを検討しても良いだろう。
2.最も投資効率の悪いポートフォリオ
■配分比率
- 米国株式:50%
- 日本株式:50%
項目 | 価 |
累積リターン | 213% |
年率換算リターン | 5.3% |
リスク | 18.9% |
シャープレシオ | 0.28 |
※1996/4/1 ~ 2018/6/30までのデータに基づく、無リスク金利は0%とする
実は最も投資効率の悪いポートフォリオとは、よくビギナー向けの投資本で推奨されるような日米株式に50%ずつ投資する組み合わせだ。
日本株は米国株式との相関係数は相対的に低い水準だが、いかんせんリターンが低すぎるため、どうしようもない結果となっている。
最も投資効率の高いポートフォリオと比べると、累積リターンでは年率で3%の差が生じており、絶対にやってはいけない組み合わせだ。
将来も絶対こうなる訳ではないが、避けることをおすすめ
これらはあくまでも過去22年あまりの実績から算出された結果であり、将来も絶対にこうなる訳ではない。
また、これらの試算は分配金が含まれておらず、米ドルベースで行われているため、日本の投資家が買い付けた際の為替の調整も実施していない。
ただし、正確に試算しても傾向はおそらく同じで、こうした中長期に渡る国ごとの傾向や特性はそう簡単に変わるものではないだろう。
誰にも「ホームアセットバイアス」という自国の資産を無意識的に実態以上に高く評価してしまうことはあるが、これほどまで差が付くとなると、考え直す必要がある。
米国株式に投資している人は、こうした点を既に分かっていると思うが、もしポートフォリオの一部で日本株に投資しているのであれば、私はカナダ・オーストラリア・スイス株に投資することをおすすめしたい。