足元は米国でのインフレ期待の高まりを受けて長期金利の上昇が顕著となっている。FRBも利上げペースを加速させるとの見方も増えており、今後米国の長期金利が更に上昇する可能性も考えられる。
一般的な高配当株式運用は、こうした金利上昇局面のパフォーマンスは冴えない傾向にある。
というのも、いわゆる高配当株には、公益事業や通信等の設備投資で負債比率が高いが、安定的にキャッシュフローが入ってくる業種の銘柄が多く、こうした銘柄は金利敏感株と言われている。
これらの業種は、金利が上昇すると企業の借入コストの増加が懸念されることや、単純に債券対比の利回りの低下で配当株としての魅力が薄まるため、売られやすくなる。
もの凄く長期の目線で見れば、こうしたデメリットは今後の金利低下局面で均されるが、金利の上昇が長期化すると考えるなら、せめて金利上昇に耐性のある株式に投資してみても面白いだろう。
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そのETFは本当に大丈夫か?
パッシブ・低コストで米国株式に投資できる手段としてETFが普及しているが、ETFはパッシブ運用とはいえ、対象とするベンチマークによって動きが全く異なるため、アクティブ運用の一つとして見なすことができる。
そこで、日本の主要オンライン証券会社で購入できる配当・配当利回りフォーカスな米国株式ETFと、米国金利の動きについて関係性を簡単に分析し、金利上昇局面で投資すべきではないETFを簡単に確認してみた。
対象銘柄は以下の通り。今回は参考にメジャーなREITのETF及び社債のETFも一部の分析に含めた。
- VYM(バンガード米国高配当株式ETF)
- DVY(iシェアーズ好配当株式ETF)
- SDY(SPDR S&P 米国高配当株式ETF)
- HDV(iシェアーズコア米国高配当株式ETF)
- VIG(バンガード米国増配株式ETF)
- DHS(ウィズダムツリー米国高配当ファンド)
- IYR(iシェアーズ米国不動産ETF)
- LQD(iシェアーズ iBoxx 米ドル建て投資適格社債 ETF )
金利上昇局面におけるリターンは?
まず、各々のETFのキャピタルリターンから確認してみる。なお、データの関係上、参照期間は2011年8月以降とする。
高配当株投資の場合、本来的には分配金分をリターンに織り込む必要があるが、分配金込みのトータルリターンを自宅の環境では簡単には算出できないため、あくまでも傾向としてだが各ETFのキャピタルリターンを確認する。
まず、累積リターンベースでは、S&P500に続き、VYM(バンガード高配当株)、VIG(バンガード増配株)がそれなりのリターンを維持する一方、HDV(iシェアーズコア)、DHS(ウィズダムツリー高配当)は冴えない結果となっている。
次に当該期間において、米国10年国債先物が最もリターンの悪化した四半期のワースト3(≒米国金利が最も上昇した期間)と、その期間において最も「リターンの良かったETF」と「悪かったETF」を確認してみる。
2016年10月 – 12月(米国10年国債先物:▲4.72%)
順位 | ベストETF | ワーストETF |
1位 | VYM:+5.03% | HDV:+1.19% |
2位 | DVY:+3.36% | DHS:+1.23% |
3位 | VIG:+1.49% | SDY:+1.42% |
※IYR・LQDは除く
近年では、米国の大統領選期間が最も米国の金利が上昇したが、この期間のベストパフォーマーはVYM(バンガード高配当株)だ。一方、ワーストパフォーマーはHDV(iシェアーズコア)となった。
2013年4月 – 6月(米国10年国債先物:▲3.37%)
順位 | ベストETF | ワーストETF |
1位 | VYM:+2.85% | SDY:+0.47% |
2位 | HDV:+1.50% | VIG:+0.76% |
3位 | DHS:+1.00% | DVY:+0.96% |
※IYR・LQDは除く
次にバーナンキFRB議長が金融緩和縮小を示唆したいわゆる「バーナンキショック」の期間が大きく金利上昇したが、この期間においても、VYM(バンガード高配当株)が最もパフォーマンスが良かった一方、SDY(SPDR高配当株)はほぼ0%に近い伸びに留まった。
2018年1月 – 3月(米国10年国債先物:▲1.85%)
順位 | ベストETF | ワーストETF |
1位 | VIG:▲0.96% | DHS:▲6.48% |
2位 | SDY:▲3.47% | HDV:▲6.28% |
3位 | DVY:▲3.49% | VYM:▲3.67% |
実は次に金利が上昇したのはつい最近で、トランプ減税やコモディティ高等を背景としたインフレ懸念で米国金利が大幅に上昇している。この期間では、VIG(バンガード増配株)が収益悪化を最も抑制し、DHS(ウィズダムツリー高配当株)が最も収益が悪化した。
金利が上昇した四半期を全部累積すると?
実際にはありえないが、金利が上昇して金利先物の収益がマイナスとなった期間のみETFに投資していた場合の累積リターンが以下の表だ。
順位 | 銘柄及び収益率 |
1位 | VYM:+48.41% |
2位 | VIG:+46.64% |
3位 | DVY:+31.33% |
4位 | SDY:+25.03% |
5位 | DHS:+23.46% |
6位 | HDV:+20.91% |
この表は金利上昇局面だけの累積リターンだが、概ね足元までの累積リターンと傾向は似ている。VYM(バンガード高配当株)のリターンが高い一方で、HDV(iシェアーズコア)はVYM(バンガード高配当株)の半分以下だ。
これは金利上昇時には、HDV(iシェアーズコア)のパフォーマンスは特に伸びにくい可能性があることを示しているが、これだけでは金利上昇したから伸びなかったのか、そもそもパフォーマンスが伸びない銘柄が多かったのかが分からない。
金利上昇局面の相関は?
次に各々のパフォーマンスと金利の動きとの相関を確認してみたい。
算出方法としては、上記に挙げた各ETFのリターンとS&P500のETF(SPY US)のリターンの差を取り、それが金利先物のリターンの動きとどれくらい相関しているか確認する。
この相関が高いほど、そのETFは金利が上昇した際にSP500と比べてパフォーマンスが悪くなる可能性があることを示している。
順位 | 米金利との相関係数 |
1位 | DVY:0.53 |
2位 | SDY:0.49 |
3位 | DHS:0.47 |
4位 | HDV:0.44 |
5位 | VIG:0.39 |
6位 | VYM:0.27 |
参考1 REITのETF | IYR:0.68 |
参考2 社債のETF | LQD:0.61 |
DVY(iシェアーズ高配当株)やSDY(SPDR高配当株)等は米国国債10年先物のリターンが悪化する時に、各々のETFもリターンが特に悪くなる傾向がある。
つまり、金利が上昇する時には、S&P500と比べてパフォーマンスが出にくいことを示している。
一方で、VYM(バンガード高配当株)やVIG(バンガード増配株)はこれらのETFと比べると、金利上昇時のパフォーマンスの悪化が比較的抑制されていることが分かった。
今後金利が上昇していく場合、どのETFに投資すべきか?
同じように配当利回りや増配株等配当に焦点を当てている銘柄にも関わらず、そのパフォーマンスの出方や金利との関係には大きな違いが改めて確認された。
結論から言うと、今後もじわじわと金利の上昇を見込むなら、VYM(バンガード高配当株)やVIG(バンガード増配株)等のバンガード系の配当ETFを持つのが安心できるだろう。
一方、SDY(SPDR 高配当株)、DHS(ウィズダムツリー高配当)、HDV(iシェアーズコア)等はパフォーマンスが鈍くなる可能性が大いに想定されるので、投資は回避した方が良い。
同じ配当系ETFでも差が生じる要因
なお、これほどの差の要因の1つは、同じ配当フォーカスETFでもその銘柄の持ち方に大きな違いがあることだ。以下の図はパフォーマンスが良かった順に、左から主な配当フォーカスETFの直近保有業種を並べたものだ。
(出所)Yahoo Finance
右に行くほど、冒頭で述べたような公益事業や電気通信等の金利上昇局面に弱い業種を多く保有しているのがよく分かる。
VYM(バンガード高配当株)もそれなりにこれらの業種を組み込んでいるが、配当フォーカスのETFでもテックや金融等の高ベータ業種の組入れが多い。
そのため、金利が上昇しベータが高い銘柄が買われるような局面でもS&P500のような市場の動きにある程度追随することができる訳だ。
ETFによるインデックス投資は、個別銘柄の動きを追う必要はない。しかし、ただ何となく銘柄を買うのではなく、こうした特性を踏まえた上でETFの銘柄選別を正しく行わないと、中長期で見た時のパフォーマンスに大きな差が生じそうだ。