ロボアドバイザー投資で有名なWealthNaviが業界で預かり資産No1となったとプレスリリースを行ったのはつい1ヵ月前。
口座開設申込数は10万件、受託資産残高は800億円とできたばかりの独立系の運用会社の中では、かなり成功している部類だ。
WealthNaviのコンセプトは長期・積立・分散だ。ただし、散々指摘されていることなので敢えて言う必要もないが、長期での積立を許容できる人であれば、最もリターンの高い株式に分散投資して置けばよい。
そのため、敢えてアクティブな資産配分にお金を払い、中途半端に債券等に投資する必要性ははない。
とはいえ、これはあくまでも理論上の話。例えば、25年積立をする予定で、たまたま25年目に金融危機が起きてしまい換金時に大きくマイナスとなっている可能性も否定はできない。
こうした状況を回避するなら、当然分散投資をしておく方が断然良い。
WealthNaviでは、7つのアセットクラスで代表的なETFを自動で配分しているが、どのような基準でそれらのETFを選んでいるのだろうか?その選定基準と特徴をまとめてみた。
7つの資産と対応するETF
資産クラス | 種類 | 組入れ目的 | 採用ETF |
株式 | 米国株式 | リターンの享受・インフレヘッジ | VTI |
日欧株式 | 米株との分散・インフレヘッジ | VEA | |
新興国株式 | リターンの享受・インフレヘッジ | VWO | |
債券 | 米国債券 | 安定収益・米株との分散 | AGG |
物価連動国債 | 安定収益・株式との分散・インフレヘッジ | TIP | |
オルタナティブ | 金 | 株式との分散・インフレヘッジ | GLD |
不動産 | 株式との分散・インフレヘッジ | IYR |
WealthNaviで用いられている資産は主に上記の7資産。
従前は伝統的な4資産(内外株式・債券)のバランスファンドが多かったが、近年は金やコモディティ等を組入れることによるインフレヘッジ・分散を謳うファンドをよく見る。
日欧株に投資する必要性はあるの?
WealthNaviの場合、資産配分の地域割りを見れば明白だが、国内の運用会社のバランスファンドと異なり、主軸が日本ではなく米国にある。
日本株と外国株式という組み合わせではなく、米国株とそれ以外の地域という組み合わせだ。
分散投資の理論に基づくと、地域配分も一極集中ではなく、日本や欧州に配分を行う方がリスクがヘッジできるのは確かだ。
しかし、ETFで投資している以上、個別株の倒産等のリスクは限定的。さらに、近年ではグローバル株式の連動性は極めて高く、Wealthnaviが算出している米株と日欧株の資産間の相関係数は0.9と高い。
地域配分の効果はかなり薄れている一方で、地域間の過去の年率リターンには大きな格差がある。例えば、過去リターンの高い豪州株やカナダ株の方が今後もリターンが高い可能性がある。
そういう観点でみると、日欧株という枠組みでのETF組入れにはやや疑問が残る点は否めない。
選定基準
近年では様々な運用会社がETFを設定しており、米国株式や債券だけでも無数にETFが存在するが、Wealthnaviでは以下の基準に則って組み入れ銘柄を選定している。
基準 | 概要 |
資産クラス全体の動きに連動 | CAPMの理論に基づき、時価総額加重型インデックスのパッシブ運用が最も効率的であるため |
純資産総額が潤沢であること | 意図せざる償還リスクを回避するため |
流動性が潤沢にあること | いつでも適正価格で売買できるため |
外国投資信託の届け出があること | 国内で外国の投信を扱うには金融庁への届け出が必要なため |
経費率が低いこと | リターンのマイナスを抑制するため |
簡単に言うと、パッシブ運用のETFのうち、時価総額の大きな低コストETFを選びますということだ。主にバンガードやiSharesのCoreシリーズがこれらに該当する。
銘柄の詳細を確認すると、株式はVanguardで統一している一方、債券にはBlackrockとState Streetを採用している。これらについて、その特徴を確認する。
ETFの特徴
米国株式:Vanguard Total Stock Market(VTI)
項目 | 概要 |
運用会社 | Vanguard |
参照ベンチマーク | CRSP US トータル・マーケット・インデックス |
経費率 | 0.04% |
ETF純資産総額 | 974億ドル |
設定日 | 2001年5月 |
※純資産残高は記事執筆時
WealthNaviで使用されている米国株式のETFは、バンガードの人気ETFであるVTIだ。多くの米株インデックス投資家に愛用されている。
参照するベンチマークであるCRSP US Total Stock Market Indexの特徴は、大型から小型株まで、米国に上場する4000銘柄あまりの株式投資する分散性が魅力だ。
正直これだけ分散されていると、米国本土に大きな天災や戦争等が生じない限り、個人的には長期投資ではこれ一本で十分ではないかと考えている。
類似のETFとして、StateStreetのSPY(S&P500のETF)、BlackRockのIVV(S&P500のETF)等がある。
これらのETFの方が資産規模が大きいが、敢えて投資している理由はおそらく経費率の低さ(SPYは0.09%)及び指数の分散性(IVVは500銘柄前後)だろう。
日欧株式:Vanguard FTSE Developed Markets(VEA)
項目 | 概要 |
運用会社 | Vangard |
参照ベンチマーク | FTSE 先進国オールキャップ(除く米国)・インデックス |
経費率 | 0.07% |
ETF純資産総額 | 700億ドル |
設定日 | 2007年7月 |
※純資産残高は記事執筆時
日本の投資家からすると日欧株式なんて変な括りに見えるが、米国本土の投資家が外国株式に投資する際に使われるETFだ。日本で言うMSCI Kokusaiのようなもの。
米国を除く先進国株式を対象とするが、結局組入れ比率で見てみると、米国に次いで時価総額の大きい日本株や欧州株の比率が高く、日欧株ETFと呼んで差し支えない。
このETFは冒頭の懸念にもあるように、米国株に比して極端にリターンが低い。
期間 | VTIの年率換算リターン | VEAの年率換算リターン |
直近10年 | 9.04% | 3.14% |
直近5年 | 13.02% | 7.11% |
※18年3月末時点
分散の必要性は分かるが、これほどまでにリターンに格差があると、リスクの低下と共にリターンもかなり低下した結果、シャープレシオも低くなるのでは?と、やや組入れ効果に対して疑問を抱かざるをえない。
新興国株式:Vanguard FTSE Emerging Markets ETF(VWO)
項目 | 概要 |
運用会社 | Vangard |
参照ベンチマーク | FTSE エマージング・マーケッツ・オールキャップ・インデックス |
経費率 | 0.14% |
ETF純資産総額 | 605億ドル |
設定日 | 2005年3月 |
※純資産残高は記事執筆時
新興国を対象としたETFで、日欧株と比べリスクは高いものの、中長期的に見た成長性は魅力。
米国株式との相関も低く、ポートフォリオの分散効果を高める機能性も期待できる。が、一見数字を見ないと米国株式よりもリターンは高いと思われるが、実はそんなことはない。
期間 | VTIの年率換算リターン | VWOの年率換算リターン |
直近10年 | 9.04% | 2.62% |
直近5年 | 13.02% | 4.47% |
※18年3月末時点
確かに新興国株式は、20 – 30年のスパンでみると、高いリターンを残している。
しかし、ここ10年でみると、新興国株式のリターンはさほど良くない。というよりも、日欧株式と比べても低い。この点には留意したい。
項目 | 概要 |
運用会社 | BlackRock |
参照ベンチマーク | BBG Barc 米国総合インデックス |
経費率 | 0.05% |
ETF純資産総額 | 553億ドル |
設定日 | 2003年9月 |
※純資産残高は記事執筆時
従前バークレイズの算出していた米国債の総合インデックスにトラックするよう運用されているETFがこのAGGだ。米国株式投資家が分散投資する際の相手方としてしばしば使われる。
この指数は国債に加え、様々な社債等で構成されているが、構成銘柄の99%以上はトリプルB格であるため、非常に債券ETFの中でも安全度の高い。
同じ指数を対象とする類似のETFとしてバンガードのBNDがあるが、純資産残高ではAGGの方が高いため、こちらを採用していると思われる。
なお、経費率ではAGGがBNDよりも本当は0.01%高いはずだが、現在BlackRockは管理報酬の0.01%を2026年まで放棄しているため、BNDと同一水準となっている。
項目 | 概要 |
運用会社 | BlackRock |
参照ベンチマーク | BBG Barc 米国TIPインデックス |
経費率 | 0.20% |
ETF純資産総額 | 242億ドル |
設定日 | 2003年12月 |
※純資産残高は記事執筆時
TIPSとはTreasury Inflation-Protected Securitiesの略で米国のインフレ連動国債を指す。
債券は、発行時に元本と利率が固定されてしまうことからインフレに弱い。しかし、TIPSは発行時に利率が固定されているが、元本が消費者物価指数に連動して増減するため、利払いや償還元本も増減する。
まさに、インフレに対応するための債券だ。WealthNaviは、長期投資を前提としているため、株式や商品・不動産等のインフレに対応した資産に加え、債券においてもインフレに対応した資産を組み入れ、インフレヘッジを高めている。
物価連動債の弱点はデフレだが、日本と異なり一定割合のインフレが続く米国ではあまり関係なさそうだ。
項目 | 概要 |
運用会社 | StateStreet |
参照ベンチマーク | 金スポット価格 |
経費率 | 0.40% |
ETF純資産総額 | 330億ドル |
設定日 | 2004年11月 |
※純資産残高は記事執筆時
ETFの中身で金を買い込み、発行された証券がこのETFにあたる。トラックする指数も金価格そのものであり、中長期的な金の値上がり益を享受できる。
金自体は、株式や債券のようにキャッシュフローを生まないため、金価格は金の希少性とインフレに左右される。
WealthNaviでは、主にインフレヘッジ及び株式との分散を目的に組み込まれている。世界経済が持続的にインフレする限りは、金の価格も相応の値上がりが期待できる。
実際に、過去10年間の年率換算リターンは3.14%と上記日欧株のVEA並だ。
むしろ、VEAはこうしたインフレ資産よりも低いリターンしか生んでいないことに驚く。
項目 | 概要 |
運用会社 | BlackRock |
参照ベンチマーク | ダウンジョーンズ米国不動産指数 |
経費率 | 0.44% |
ETF純資産総額 | 38億ドル |
設定日 | 2006年6月 |
※純資産残高は記事執筆時
IYRは米国の不動産投資信託(REIT)で構成されるETFで、主な収益源は不動産の貸付によるインカム収益になる。
経済がインフレすれば、不動産のような実物資産も当然値上がりするため、インフレ対応資産として組み込まれている。
金と同様に株式と異なる動きをするため、ポートフォリオの分散を効かせるアセットとしての有効性も高い。
今後FRBが金融引き締めを継続する中、金利上昇は不動産にとって向かい風ではあるが、過去10年の年率換算リターンは5.88%となっており、実は米国株についでリターンの高い資産クラスだ。
特にリスク許容度が高い人は、自分でやるのも1つの手
ここまで、WealthNaviで組み込まれているETFを紹介したが、このようなアロケーションが売りの商品は、分散によるリスクコントロールのためにリターンの低いアセットも相応に組み込まれていることが分かる。
こうしたロボアド系サービスでは投資の決定前にリスク許容度の診断が大抵行われるが、リスク許容度が最高値と判断された人は、自分でETFやノーロードのインデックス投信を買うのも1つの選択肢だ。
個人的には完全なる余剰資金の場合は、VTIのみの投資で十分だと思う。
一方で、子供の学費等のように極端にポートフォリオが棄損することを避けたい場合や、途中で積立を止めて引き出しする可能性がある場合は、これらの組み合わせによるリスクコントロールは必要になる。
株式だけのポートフォリオでは、当然ながら極端に損益がマイナスとなっている局面も大いにあるからだ。
そう考えると、投資を嗜む人が少なく、特にリスク許容度が低い人が多いと思われる日本人には、その間口としてWaelthNavi等のロボアドサービスは良いきっかけの1つかもしれない。