米国株は日本株と比較すると、長期では非常に綺麗な右肩上がりのチャートを描いており、中長期での資産形成に米国株を勧める人のブログでは、しばしば以下のようなチャートを見かけます。
青色のチャートがダウ平均株価、紫色が日経平均株価。エグイぐらいの差
これらはダウ平均と日経平均という配当を含まない単純平均株価のチャートであるため、実際に投資したリターンとは異なりますが、それでもこの差は非常に大きい。トータルリターンベースなら更に差がつきます。
こうした米国株の成長力を享受するのには、自分で銘柄選びをしても良いですが、中長期ならインデックス投資で十分ですし、時間的効率も高いです。例えば、GoogleやAmazonなどを組入れたグロースETFでも良い。
ただ、個人的にはキャピタルとインカムで比較的安定的な利益でじわじわと稼ぐ高配当ETFがおすすめ。特に中長期の投資になるほど複利効果がよく効きます。
さて、そんな米国株の高配当ETFについて、どんなものがあるのか。十分に資金の集まっている基本的なETFをまとめてみました。貴方の資産形成に役立つETF選びの参考にして下さい。
※本記事の掲載データは記事執筆時点(2017/5/29)に取得できる最新データに基づきます。マーケットの変動により、実際の投資時点の数値と異なる可能性がありますので、各種数値は参考値(傾向)として下さい。
Contents
VYM:バンガード米国高配当株式ETF
シンボル | VYM |
銘柄名称 | バンガード米国高配当株式ETF |
運用会社 | バンガード |
組入れ対象資産 | 配当利回りの高い米国株 |
経費率 | 0.08% |
取引単価52週レンジ | 67.88 – 79.62 USD |
構成銘柄数 | 428銘柄 |
純資産額 | 248億 USD |
分配金利回り | 2.95% |
ベンチマーク | FTSE 高配当利回り指数 |
設定日 | 2006/11/10 |
ベータ | 0.9 |
VYMはバンガード社が提供するシンプルな米国株式を対象とした高配当株式ETF。FTSEの高配当利回り指数をベンチマークとし、組入れ銘柄数は428銘柄と比較的多いです。
バンガードらしく経費率は平均的なETFの水準を大きく下回る0.08%となっており、米国株の高配当株運用で取りあえず持ちたい銘柄の1つ。但し、足下では株価の上昇でやや配当利回りは低下気味です。
組入れ銘柄の業種構成
業種構成としては、銘柄数の多さにも示されるように分散が効いています。情報技術や金融の比率が相応に高いため、高配当株ながらベータは0.9と比較的高め。
保有上位10銘柄
銘柄名称 | 構成比率 |
マイクロソフト | 5.28% |
エクソン・モービル | 3.63% |
ジョンソン&ジョンソン | 3.63% |
JPモルガンチェース | 3.37% |
ウエルズファーゴ | 2.97% |
ゼネラルエレクトリック | 2.80% |
AT&T | 2.72% |
プロテクター&ギャンブル | 2.44% |
ファイザー | 2.20% |
シェブロン | 2.15% |
構成銘柄の上位だけ見ても金融・ヘルスケア・電気通信サービス・エネルギーなどの代表的な大型銘柄が組み入れられており、業種に偏りはそこまで見られません。
分配金実績
期間 | 過去5年 | 過去3年 | 2016 |
増配率(年率) | 10.7% | 8.0% | 2.7% |
株価の上昇と共に配当も力強い伸び。利回りは概ね3%前後を推移しています。昨年度の増配率はやや鈍かったものの、過去5年では2ケタを維持しています。
直近5年間の株価チャート
※比較対象はダウ平均株価。青色がVYM、緑色がダウ平均。
直近5年で見ると、キャピタルリターンの動きはダウ平均株価と大きな差異はありません。足下は上昇相場であったこともあり、シャープレシオは1.33と良い数字。配当を再投資することを考慮すると、更に伸びます。
配当益・値上がり益両方を狙いたい人におすすめです。
HDV:iシェアーズ・コア米国高配当株ETF
シンボル | HDV |
銘柄名称 | iシェアーズ・コア米国高配当株ETF |
運用会社 | ブラックロック |
組入れ対象資産 | 配当利回りの高い米国株 |
経費率 | 0.08% |
取引単価52週レンジ | 77.86 – 85.70 USD |
構成銘柄数 | 75銘柄 |
純資産額 | 66億 USD |
分配金利回り | 3.30% |
ベンチマーク | モーニングスター配当フォーカス指数 |
設定日 | 2011/3/29 |
ベータ | 0.72 |
ブラックロックが運用するバンガードVYMの対抗馬ETFであるHDV。但し、モーニングスター配当フォーカス指数をベンチマークとしており、同じ高配当株ETFでも内容は異なります。
経費率はVYM同様で0.08%と変わりませんが、分配金利回りは3.30%とこちらのETFの方が高めです。
組入れ銘柄の業種構成
バンガードのVYMと比較すると、生活必需品、ヘルスケア、電気通信サービスなどのディフェンシブセクターの比率が高めです。そのため、ベータ値も0.7と比較的穏やかな動きです。
保有上位10銘柄
銘柄名称 | 構成比率 |
エクソン・モービル | 8.45% |
AT&T | 7.70% |
ベライゾンコミュニケーションズ | 5.93% |
ジョンソン&ジョンソン | 5.82% |
シェブロン | 5.36% |
ファイザー | 5.14% |
プロテクター&ギャンブル | 4.47% |
フィリップ・モリス | 4.39% |
コカ・コーラ | 3.75% |
シスコシステムズ | 3.51% |
組入れ銘柄数が75銘柄ほどしかないため、1銘柄に対するエクスポージャーはVYMと比べると大きいです。保有上位は高配当株運用の常連といったラインナップ。
分配金実績
期間 | 過去5年 | 過去3年 | 2016 |
増配率(年率) | 24.5% | 6.6% | -6.2% |
昨年度は減配となったHDV。良さを挙げるとすれば、過去5年度見ると増配率は20%以上であることですね。
直近5年間のチャート
※比較対象はダウ平均株価。青色がHDV、緑色がダウ平均。
低ベータETFらしく直近5年の動きはダウ平均と比べると鈍く、シャープレシオも1.18と同カテゴリー平均をやや下回っており、あまり良い点が見当たりません。
敢えて投資するなら、まぁ配当利回りが高めなのでポートフォリオの配当利回りを引き上げたい、ベータを引き下げたい人向けでしょうか。
SDY:SPDR S&P 米国高配当株式ETF
シンボル | SDY |
銘柄名称 | SPDR S&P 米国高配当株式ETF |
運用会社 | ステートストリート |
組入れ対象資産 | 20年以上連続して増配の実績のある米国株 |
経費率 | 0.35% |
取引単価52週レンジ | 79.48 – 89.92USD |
構成銘柄数 | 110銘柄 |
純資産額 | 155億 USD |
分配金利回り | 2.48% |
ベンチマーク | S&P ハイ・イールド・ディビデンド・アリストクラッツ インデックス |
設定日 | 2005/11/8 |
ベータ | 0.88 |
SDYはステートストリートのETFブランド「スパイダー」の高配当ETFです。古くからあるETFですが、バンガードのVYM、ブラックロックのHDVが登場したことで経費率の0.35%にはやや割高感。配当利回りも2.5%前後と物足りない。
そのため、資産残高の順番ではVYM(バンガード)>DVY(ブラックロック、後述)>SDY(ステートストリート)>HDV(ブラックロック)と後塵を拝する状態になっています。
組入れ銘柄の業種構成
SDYの上位を構成している銘柄は金融関連が多いです。そのため、この構成だけみると金利に対する感応はそれなりに高いように見えます。ベータは0.88もあり、市場との連動性はVYM並みの高さです。
保有上位10銘柄
銘柄名称 | 構成比率 |
アッヴィ | 1.78% |
AT&T | 1.76% |
オールド・リパブリック・インターナショナル | 1.67% |
リアルティ・インカム | 1.65% |
コン・エジソン | 1.58% |
ナショナル・リテール・プロパティーズ | 1.54% |
マクドナルド | 1.43% |
キャタピラー | 1.41% |
エマソンエレクトリック | 1.40% |
シティグループ | 1.39% |
保有銘柄の上位を見ると、あまりよく知られていない銘柄が並びますが、ETFのモーニングスターの特性区分では大型と判断されています。業種で見てもそこまで偏りはありません。
分配金実績
期間 | 過去5年 | 過去3年 | 2016 |
増配率(年率) | 10.2% | ▲6.4% | ▲38% |
分配実績はあまり安定していません。昨年度は大幅な減配となるなど、組入れ銘柄が頻繁に変わっているのでしょうか。長期で見れば右肩あがりなのでしょうが、他の高配当ETFと比較すると変動が激しい方です。
直近5年間のチャート
※比較対象はダウ平均株価。青色がSDY、緑色がダウ平均。
キャピタルリターンはダウ平均と同様の動き。ベータは低いですが上昇相場でも、局面によってはダウ平均株価をアウトパフォームしています。但し、例えばダウ平均株価のETF(DIA)の配当利回りは2.2%である点を踏まえると、利回りのそれほど変わらないこの銘柄を組入れる意味はあまりないのかもしれません。
VIG:バンガード増配株式ETF
シンボル | VIG |
銘柄名称 | バンガード増配株式ETF |
運用会社 | バンガード |
組入れ対象資産 | 10年以上連続して増配の実績のある米国株 |
経費率 | 0.09% |
取引単価52週レンジ | 79.06 – 92.18USD |
構成銘柄数 | 185銘柄 |
純資産額 | 290億 USD |
分配金利回り | 2.01% |
ベンチマーク | NASDAQ USディビデンド・アチーバーズ・セレクト・インデックス |
設定日 | 2006/4/21 |
ベータ | 0.87 |
VIGはバンガードの運用する10年以上増配実績のある米国株式のみで構成されたETF。増配実績のある銘柄のみで、しかも将来の増配可能性の少ない銘柄は除外されるため、長期保有による着実な増配が期待できます。
但し、「増配」にフォーカスしているという点がポイントで、必ずしも目先の分配金利回りは高くはありません。要は将来の増配確度の高い銘柄ばかりのため割高なのです。ヒストリカルで見ても、分配金利回りが3%を超えている期間は殆どない点に注意です。
経費率は0.09%とVYMと比べて0.01%高い設定となっています。
組入れ銘柄の業種構成
高配当関連ETFでは珍しく資本財セクターが上位に位置しており、その後に生活必需品やヘルスケア銘柄が続きます。そのためか、ベータは0.87と比較的高めの数値。それなりには市場の動きに付いていけそうです。
保有上位10銘柄
銘柄名称 | 構成比率 |
マイクロソフト | 4.10% |
ジョンソン&ジョンソン | 4.06% |
ペプシコ | 4.04% |
3M | 3.27% |
メドトロニック | 3.17% |
ユナイテッド・テクノロジーズ | 2.59% |
ウォルグリーン・ブーツ・アライアンス | 2.57% |
ユニオン・パシフィック | 2.47% |
CVS ヘルス | 2.31% |
テキサスインスツルメンツ | 2.31% |
保有上位銘柄はこんな感じ。マイクロソフトや、ジョンソン&ジョンソンはご存知の銘柄ですが、それより下には医療機器メーカーのメドトロニック、コングロマリットのユナイテッドテクノロジーズなど、日本の一般人にはあまり知られていない優良企業が含まれています。
分配金実績
期間 | 過去5年 | 過去3年 | 2016 |
増配率(年率) | 9.3% | 9.6% | 0.3% |
足下10年位は1桁後半の増配率となっています。実は増配可能性が高いというだけで、増配率は突出して大きいわけではないところがポイント。ETFの名前で騙されちゃいそうですが注意しましょう。
直近5年間のチャート
※比較対象はダウ平均株価。青色がVIG、緑色がダウ平均。
直近5年間の株価でみると概ねダウ平均と同程度の動き。業種構成もディフェンシブセクターばかりに偏っている訳ではないので、この値動きは納得。ちなみに、シャープレシオは1.2程度です。
このETFは企業業績が堅調な環境で、どの銘柄も増配している時はあまり目立ちません。不景気な時でもそれなりの増配が見込めるのがこの銘柄のウリですので、長期でじっくり待てる投資家には良いでしょう。
DVY :iシェアーズ好配当株式ETF
シンボル | DVY |
銘柄名称 | iシェアーズ・高配当株式ETF |
運用会社 | BLACKROCK |
組入れ対象資産 | 高配当米国株 |
経費率 | 0.39% |
取引単価52週レンジ | 80.91 – 93.52USD |
構成銘柄数 | 100銘柄 |
純資産額 | 170億 USD |
分配金利回り | 3.02% |
ベンチマーク | ダウ・ジョーンズ U.S.セレクト・ディビデンド・インデックス |
設定日 | 2003/11/3 |
ベータ | 0.67 |
こちらはiシェアーズシリーズの別の高配当ETFであるDVYです。端的に違う点は、対象となるベンチマークが異なるため、当然ながらETFの特性も全般的に違うことや、経費率が0.39%と比較的割高なことです。細かな違いは下記で触れていきます。
ちなみに、iSharesからHDVとDVYと似たような高配当株ETFが2つもありますが、HDVはバンガードのような低コストETFに対抗するためのブランドなため、経費率を安くして新しく2011年に既存のETFを模様替えして作った商品です。こちらの方が古くからあります。
組入れ銘柄の業種構成
最上位セクターとしては公益事業関連、一般消費財・サービス、金融など占めています。公益が上位ということもあり、市場の変動に強く、ベータは0.67程度。高配当ETFでは保有上位に多いヘルスケアや生活必需品は少なく、HDVとは明確に異なります。
保有上位10銘柄
銘柄名称 | 構成比率 |
ロッキードマーティン | 3.76% |
CMEグループ | 2.85% |
フィリップモリス | 2.16% |
シェブロン | 2.16% |
マクドナルド | 2.11% |
ネクステラ・エナジー | 2.08% |
キンバリークラーク | 1.95% |
エンタジー | 1.86% |
DTEエナジー | 1.77% |
センプラエナジー | 1.76% |
上位保有銘柄を見ると、軍需企業であるロッキード・マーティン社が最上位銘柄。また、業種構成ではあまり目立たなかったエネルギー関連が多い事が分かります。
分配金実績
期間 | 過去5年 | 過去3年 | 2016 |
増配率(年率) | 7.8% | 7.2% | 4.1% |
分配金の推移を見てみると、2008年から2009年にかけてリーマンショッックの影響で大幅に減配となったことを除けば、足下の推移は綺麗な右肩上がり。過去5年では7%台と、今後もそれなりの増配可能性は期待できそうですね。
直近5年間のチャート
※比較対象はダウ平均株価。青色がDVY、緑色がダウ平均。
ダウ平均株価と比べてみると、ベータの低さもあり、再投資効果を除く単純キャピタルリターンは劣後します。但し、同期間のダウ平均株価がシャープレシオ1.1前後に対し、DVYは1.45とかなり高い数値。
ファンドの利回りを高位に保ちつつ、リスクを抑制したい人はポートフォリオに一部組み入れても良いかもしれません。
PFF:iシェアーズ米国優先株式ETF
シンボル | PFF |
銘柄名称 | iシェアーズ・米国優先株式ETF |
運用会社 | BLACKROCK |
組入れ対象資産 | 米国の優先株式 |
経費率 | 0.47% |
取引単価52週レンジ | 36.70 – 40.34USD |
構成銘柄数 | 292銘柄 |
純資産額 | 175億 USD |
分配金利回り | 5.61% |
ベンチマーク | S&P 米国優先株式インデックス |
設定日 | 2007/3/26 |
ベータ | 0.85 |
PFFは米国の優先株式のみで構成される指数をベンチマークとするETFです。優先株式とは、議決権などが制限される代わりに配当や解散時の残余財産を優先的に受け取れる株式です。性格的には株式と社債の中間に位置します。
経費率0.47%とやや高めですが、上記の定義の通りこのETFの分配金利回りは5%を超過しているため、こうしたコストの高さはある程度相殺されます。
組入れ銘柄の業種構成
優先株式ETFというやや特殊なETFですが、業種構成もほぼ金融関連銘柄で構成されるなどかなり独特。金融系のインデックスと相関は高いですが、余りある配当利回りによってベータ0.8前後と相対的に緩やかな動きとなっています。
保有上位10銘柄
銘柄名称 | 構成比率 |
アラガン | 3.76% |
バークレイズ | 2.85% |
GMAC | 2.16% |
HSBC | 2.16% |
シティグループ | 2.11% |
ウエルズファーゴ | 2.08% |
Tモバイル | 1.95% |
ドイツ銀行 | 1.86% |
上位保有銘柄を見ると、ほぼ金融銘柄が保有上位をします。ただ、肝心の最大保有銘柄がヘルスケアのアラガンなのは驚きですが。
分配金実績
[期間 | 過去5年 | 過去3年 | 2016 |
増配率(年率) | ▲2.9% | 1.6% | 5.6% |
分配金の推移は右肩下がりの傾向を示しており、増配の期待は薄く投資してもつまらないかも。昔は利回りが1桁台後半のこともあったので、個人的には今後中長期で保有するにはちょっと避けたいですね。
直近5年間のチャート
※比較対象はダウ平均株価。青色がPFF、ピンク色がダウ平均。
ダウ平均株価と比べてみると、殆ど株価は動いておらずまさに債券のような緩い動きです。分配金の高さは魅力ですが、同じ期間にダウ平均のETFを購入して放置していればかなりのキャピタルリターンになります。
保有用途としては、元本を棄損したくない資金や分配金を充てに生活している人など、債券のような保有を目的とする方には良いのではないでしょうか。
まとめ
米国株に投資する高配当ETFの中で比較的ポピュラーかつそれなりに受託残高・流動性のあるものをピックアップしてみました。
これら以外にも様々なETFがありますが、インカム狙いのETFならこれらに挙げたETFを選んでおけば、取りあえずは問題ないと思います。
私の中での今のおすすめはキャピタルリターンも狙えるVYM、次点で中長期的な増配に期待できるVIGでしょうか。
その他のETFも用途によっては使い道は十分にありますが、あらゆるインカム投資家のニーズに合致しやすいのが上記の2点かと思います。まだ持っていない方は、是非検討してみて下さい。